一昨年の冬から 昨年の夏にかけて、インターネット上での著作権のあり方などについて、
インターネット上での作品提供に関心を持つ著名なアーティストやインターネット
に関する有識者を対象にアンケートを行いました。具体的には、約20名の方に
直接質問票を送りましたところ、以下に列挙する9人の方から回答をいただき
ました。そこで、大変遅くなりましたが、それらの回答の集計結果を発表します。
回答者
浅田 彰
出井 伸之
(SONY社長)
岩井 俊夫
井芹 昌信
(インプレス編集部)
筑紫 哲也
(ジャーナリスト)
藤幡 正樹
村井 純
(SFC教授)
村上 龍
(作家)
Laurie Anderson
《回答結果》
インターネット等を通じたユーザへのダイレクトな作品提供を積極的に行おうと思いますか。
[回答]
行う:5人
現実に行っている:1人
行わない:2人
無回答:1人
[コメント]
作品そのものの提供というよりも、作品が出来るまでの諸要素や作品の追加・修正部分の提供、日記のような形でリアルタイムに近い批評的発言を提供することが考えられる。
多くの人が接することがふさわしい作品について特に活用されるべき。
インターネットは完成された作品を扱うのには向かない。
現段階ではまだ漫画などの一部の作品にしか向かないのではないか。
将来、コンピュータ・ネットワークを通じた作品の販売は、小売店を通じた販売を凌駕すると思いますか。
[回答]
凌駕すると思う:2人
凌駕しないと思う:3人
無回答:4人
[コメント]
情報に関してはネットワークの比重が一層高まるだろうが、商品にはフェティッシュとしての性格があり、モノを店頭で販売するという形もかなりの比率を占め続けるだろう。
消費者が狭い都市に集中する日本での普及は、消費者が広い国土に散在するアメリカの半分程度になるのではないか。
既存の流通が規模を維持し、ネットワーク流通が発展することにより、全体のマーケットが拡大していくのが望ましい。
インターネット等のinteractive mediaは、将来的には新聞・テレビ等のnon-interactive mediaを凌駕する程の社会的影響力を持つようになると思いますか。
[回答]
思う:3人
思わない:2人
無回答:4人
[コメント]
新聞・テレビ等が国民の関心事を一方的に設定するアジェンダ設定機能を持つのに対して、interactive mediaはグローバルな連関を持つローカルメディアとして新しいアジェンダを発見・創造するパイロット的な機能を担うのではないか。
全体像を把握するような用途にはnon-interactive mediaが今後も有効。
人間の価値観や人生観に与える影響という意味では、interactive mediaは極めて重要な位置をしめるであろう。
interactive mediaが真に効力を発揮するのは、危機的状況での緊急時である。
作品の定価とクリエイターの収入の間にかなりの格差(収入は定価の10%程度)がある現状をどのように思いますか。本来定価の何%を受け取るべきと思いますか。
[回答]
100%:2人
50%:1人
数十%:1人
無回答:5人
[コメント]
現状は情報産業の「ギルド」による搾取となっている。本来、モノとしての部分の製作コストと流通コストを除いた額は全てクリエイターに帰属すべき。
インターネット等を通じて作品が販売される場合、対価はどのように決定されるべきと思いますか。また、対価は今よりも安くなると思いますか。
[回答]
物々交換的なルールとなる:5人
無回答:4人
[コメント]
多くのユーザに提供される作品の場合、一定期間の試行錯誤の後に相場のようなものが形成され、ユーザが支払う額は今よりも低く、またクリエイターが受け取る収入は今よりも高くなるだろう。他方、少数のユーザに提供される特殊な作品の場合は、価格のばらつきが非常に大きくなるだろう。
ダウンロードの対価を、回数を重ねる毎に段階的に安くなるように設定すれば、ユーザがコピーして保管しておこうという動機は薄れるのではないか。
対価は劇的に安くできるのではないか。
ユーザから対価を直接徴収することが困難で、何らかの仲介団体を通じて一定額しか徴収出来ない場合でも、インターネット等を通じた作品の販売を行いますか。
[回答]
行う:4人
行わない:2人
無回答:3人
[コメント]
そうした対応は新しい「ギルド」の形成につながるので受け入れるべきではない。
インターネット経由の販売が普及すれば、対価の徴収方法にかかわらず利用せざるを得なくなるだろう。
どのような形でも現状よりは一歩前進となる。
利用するかどうかは作品の質(素材や媒体)による。
(a)インターネット等を通じて作品を送信・再送信する行為はクリエイターの権利として保護されるべきと思いますか。
[回答]
保護されるべき:7人
無回答:2人
(b)ユーザがクリエイターの作品を用いて以下のような行動を行う場合について、クリエイターの許諾が不要と考えるものを選んでください。
1.自分の所有する別のコンピュータに転送する場合
2.自分の家族に送信する場合
3.2〜3人の友人に送信する場合
4.10人以上の友人に送信する場合
5.自分がよく知らない人も含まれているメーリングリストに載せる場合
6.会社の仲間に業務のために送信する場合
[回答]
1:5人が選択
2:4人が選択
3:3人が選択
無回答:4人
[コメント]
プライベートな送信・再送信についてまでクリエイターの許諾を求める必要はないが、法的にも技術的にも線引きは難しいので、形式的には一切の送信・再送信についてクリエイターの権利を保証する必要があるかもしれない。
複製の権利としてのコピーライトとそれにまつわる著作権料ではなく、使用の権利と使用料を中心に考えるべきではないか。
(a)自分の作品を対価なしに無制限にコピーされることを許容出来ますか。
[回答]
・許可しない:7人
・無回答:2人
(b)ユーザが以下のような行動を行う場合、私的利用の範疇に入るとして無制限のコピーを認められるものを選んでください。
1.自分の所有する別の端末で利用するためにコピーを作る場合
2.作ったコピーを家族に渡す場合
3.作ったコピーを2〜3人の友人に渡す場合
4.作ったコピーを10人以上の友人に渡す場合
5.作ったコピーを会社の仲間に業務のために渡す場合
6.作ったコピーを学校の生徒に授業の教材として渡す場合
[回答]
1:5人が選択
2:3人が選択
3:1人が選択
4:2人が選択
無回答:4人
ユーザが対価を払わずにクリエイターの作品を加工・改変して新たな作品を作り出して以下のような行為を行う場合、クリエイターの許諾が不要と考えられるものを選んでください。
1.家族でその作品を楽しむ場合
2.2〜3人の友人にその作品を渡す場合
3.10人以上の友人にその作品を渡す場合
4.その作品を無料で希望者に配布する場合
5.その作品を販売する場合
[回答]
1:4人が選択
2:1人が選択
無回答:5人
[コメント]
特に営利目的のために使用する場合には、作者であるクリエイターの許諾を得た上でオリジナルの情報源を明記して相応の価格を払うことが必要である。
対価を払って作品を入手したら、観賞とともに改変の権利も有するとしてよいのではないか。その成果物を他人に観賞させる場合でも、引用の範囲内なら認めるべき。
許可するかどうかは改変の度合いによる。
(a)クリエイターがネットワーク上で作品を公開した場合、その著作権を放棄していると考えるべきでしょうか。
[回答]
放棄していない:6人
そう考えざるを得ない:1人
無回答:2人
[コメント]
どんな行為であっても、金銭のやり取りがある場合には権利の主張を行うべき。
特に営利目的のために利用する場合は、クリエイターの許諾を得た上でオリジナルの情報源を明記して相応の対価を支払うことが必要。
引用の範囲の明確化やクレジットの入れ方を定着させることが必要。
(b)インターネット上で公開された作品を用いて以下のような行為が行われる場合について、作者の許諾が不要と考えられるものを選んでください。
1.作品の一部をユーザがプライベートに活用しているファイルに取り込む場合
2.作品の一部が、インターネット上で著作者名入りで引用される場合
3.作品が他の作品の一部として組み込まれ、それがインターネット上で公開・提供される場合
4.作品の一部を活用してCD等が編纂・販売された場合
5.作品そのものを活用してCD等が編纂・販売された場合
[回答]
1:4人が選択
2:3人が選択
無回答:5人
米国でネット上での下品な内容の公開を規制する通信品位法が議論されていますが、ネット上での内容規制の是非についてどのように考えますか。
[回答]
絶対に反対:3人
条件付きで反対:2人
無回答:4人
[コメント]
時代とともに道徳は変化し、それが文化を創造することがあるので、過度の内容規制は行うべきではない。
インターネットは一般の社会と同じであり、一般社会で公序良俗に反するとされる内容をネット上で誰の目にも触れるような状態にすることには反対。
全くナンセンス。規制ではない社会的な倫理の生成方法を考えるべき。
マスメディアにコントロールされない個を作ることが出来れば良く、そのためのステップが始まっているのだと思う。
規制するとインターネットは自分の首をしめるが、規制しないと無秩序が生まれる。
どのような形にせよ検閲は絶対に行われるべきではない。