この数年のデジタル技術の進歩とコンピュータ・ネットワークの普及は、クリエイターが創り出す作品と人間との関係を根本的に変えつつあります。
デジタル技術の進歩は、作品の複製と、更には複製した作品に自由に手を加えることを容易にしました。コンピュータの表現力は、現在の段階ではまだ既存の印刷技術や音響製品などにくらべて落ちますが、近い将来にはプロにも十分魅力あるメディアに姿を変えていくでしょう。しかも、これまでは音楽や映画の制作、雑誌の出版などそれぞれのメディアで異なる技能が必要とされてきましたが、それらの技能はいずれコンピュータソフトウェアという形で統一されるでしょう。この結果、コンピュータを利用することにより、一部のプロのクリエイターに限定されることなく、全ての個人がクリエイターとなって芸術作品を作り出すことが可能となるでしょう。
また、コンピュータ・ネットワークの普及により、マスメディアや物流ルートにおいて必要であった多額の投資を行うことなく、誰でも自由に情報を発信できるようになりました。この結果、通信網さえあれば、全ての個人が自由に自分の創作の成果を世界に向けて発表できるようになる環境が実現するものと期待されます。
しかし、その一方で、著作権関係のルールに目を向けると、コンピュータ・ネットワークを通じた作品の流通に関するルールがはっきりと確立していません。また、デジタル化・ネットワーク化の進展に十分に対応していないのではないか、という疑問も湧いてきます。全ての個人が自由に創作成果を発信し、かつより多くの作品をより安価に楽しめる環境を確立するためには、デジタル化・ネットワーク化の時代に対応した著作権の保護のあり方を検討していく必要があるのではないでしょうか。
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